2018年3月24日土曜日

本の話

 

長辻象平「闇の釣り人」

時は江戸時代元禄年間。
将軍綱吉の「生類憐みの令」により野犬が増えて死傷者多数、庶民が苦しんでいた時代。
釣りさえも禁止となっていた。
そんな時代に死罪覚悟で釣りをしていた「闇の釣り人(つりゅうど)」の話。
 
闇の釣り人お与満(よま)と武士阿久沢の会話。
 
「でもね、阿久沢様、あたしには不思議ですわさ。出雲は馬鹿で下司で臆病でつまらない屑野郎ですよ。どうしてそんな人間が出世していくのですかねえ」
「それはたやすい理屈よ」
阿久沢が説明を始めた。
「組織において、上に立つ者に才がなければ、その者は、とかく己より愚かな者を身近に置きたがる。そうしておけば、自分が賢く思えるではないか。いつも安心しておられる。今の幕府は上から下までがその小馬鹿大馬鹿の繋がりよ。その仕組みの中では、恥知らずの馬鹿者ほど出世をするというわけじゃ。・・・中略・・・こうして無能の者たちが、天下の政治(まつりごと)を動かしてきたゆえに、ものを考えぬ犬や猫から牛馬まで人の上に立つという奇怪な世の中となってしもうた」
「それじゃあ、御政道そのものが成り立たないことになりますわさ」
「いかにも、まったく成り立っておらぬ。そのために、わずかな不作で飢饉に陥り、悪貨を鋳造しては諸色の高騰を招いておるではないか。挙句の果てには、釣りまでを禁止にしてしもうたわ」
 
・・・歴史は繰り返す・・・
 
 

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